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第5回 顧客ニーズの多様性と品質の相対性

2026.07.30会長ブログ

前回の概要:前回は,顧客は必ずしも一人ではなく,購入者,使用者,便益を受ける人,影響を受ける人などに分かれることがある,という話をしました.病院でも,患者,家族,地域,連携先など複数の顧客を考える必要があります.

 今回は,ニーズの多様性と,それによって品質の評価が変わるという話をします.

 読者の皆さんも日々感じておられる通り,患者や家族のニーズは一様ではありません.同じ外来診療であっても,急性症状があり「とにかく早く診てほしい」と考える患者もいれば,慢性疾患について「継続的に相談したい」と考える患者もいます.高齢で移動に不安がある患者もいれば,仕事の合間に短時間で受診したい患者もいます.

 つまり,同じ「外来診療」というサービスであっても,患者によって求めているものは異なります.同じ「待ち時間」であっても,強い痛みや不安を抱えている患者にとっては大きな不満につながりますが,じっくり相談したい患者にとっては,多少待っても十分に話を聞いてもらえることの方が重要かもしれません.

 品質管理では,良い品質とは,顧客のニーズを満たすことだと考えます.そうであれば,病院における品質も,単に標準的なサービスを提供することだけではなく,「誰が,どのような状況で,何を求めているのか」を理解することが重要になります.

 一般産業でも,同じ自動車であっても,ラグジュアリーカー,エコノミーカー,スポーツカー,ミニバンでは,顧客層も求められる性能も異なります.靴でも,ビジネス用,カジュアル用,雨の日用,長時間歩く人向けなど,用途によって重視される点は変わります.このように,似たニーズを持つ顧客群に分けて考えることを,市場セグメンテーションと呼びます.

 ただし,ニーズの多様性は,単に「人によって違う」ということだけではありません.同じ患者であっても,場面によってニーズは変化します.

 たとえば,初診時には「自分の状態を早く知りたい」「不安を取り除いてほしい」と思い,治療方針を決める段階では「選択肢をきちんと説明してほしい」「納得して決めたい」と思うかもしれません.退院前には,「自宅でどのように生活すればよいか」「どの症状が出たら受診すべきか」を具体的に知りたいと思うかもしれません.

 ここで重要になるのが,「品質とは相対的な評価である」という考え方です.品質というと,高機能,高性能,高度な設備,詳細な情報提供などを思い浮かべることがあります.しかし,すべての人がそれを望んでいるとは限りません.ある人にとっては便利な多機能が,別の人にとっては「機能が多すぎて使いにくい」という不満につながることもあります.

 医療でも同じことが起こります.詳細な検査結果をすべて知りたい患者もいれば,専門用語をできるだけ避けて,今後の生活上の注意点を端的に知りたい患者もいます.高度な医療機器を備えていることが安心につながる患者もいれば,身近で相談しやすいことの方を高く評価する患者もいます.

 このように,品質は絶対的な仕様の高さだけで決まるものではありません.誰にとって,どのような目的で,何が求められているのかによって,品質の評価は変わります.

 病院スタッフにとって大切なのは,「同じ対応をしているから公平である」と考えるだけでなく,「相手の状況やニーズに合った対応になっているか」を考えることです.もちろん,医療安全や標準化の観点から,守るべき手順や基準はあります.しかし,その上で,説明の仕方,声のかけ方,情報提供の量や順番,支援の重点を相手に合わせて調整することが,医療における品質を高めることにつながります.

 今回はニーズの多様性と品質の相対性についての話をしましたが,医療サービスでは,一般産業以上に,ニーズの多様性への対応が複雑になりやすいですし,だからこそ重要であるともいえます.

次回予告:次回は,直接の顧客だけでなく,社会や利害関係者まで含めて品質を考える「社会的品質」を取り上げます.

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