第9回 当たり前品質と魅力的品質
前回の概要:前回は,品質の“品”は品物の“しな”ではなく,品格の“品”であり,品質は目に見えるモノだけでなく,顧客価値として捉える必要がある,という話をしました.
今回は,1984年に狩野紀照先生らによって提唱された,当たり前品質,魅力的品質という考え方を紹介します.これは,品質が顧客の心理的満足度に与える影響の違いを考慮した品質の捉え方であり,今でも多くの企業で用いられている有用なものです.
“当たり前品質”とは,商品の物理的な性質が満たされていても,顧客にとってそれは当たり前であり,心理的な満足度の向上にはあまり影響しないが,不十分であると大きな不満を感じるような特性のことを指します.
例えば,自動車におけるブレーキ故障などは現代では無くて当たり前ですが,このようなことが購買後すぐに発生してしまったら,顧客の不満足度に直結することになります.
一方で,“魅力的品質”とは,物理的な性質が多少悪くてもそれほど不満を感じないが,充実させることで顧客の満足度が大きく向上する特性のことを指します.例えば,自動車で言えば“走り抜ける爽快感”のようなものが当てはまります.
病院でいえば,患者確認が確実に行われること,薬剤の取り違えがないことなど,いわゆる医療安全の確保は当たり前品質に近いでしょう.これらは満たされていても大きな感動にはつながりにくいかもしれませんが,満たされなければ重大な不満,場合によっては医療事故につながります.
一方で,退院後に患者の生活状況に合わせた相談先を丁寧に案内する,検査前の不安を軽減する説明が工夫されている,外来で患者の負担や待ち時間が少ない動線になっている,家族が安心して状況を把握できる仕組みがある,オンライン診療(遠隔診療)が可能である,といったことは魅力的品質になり得ます.
これらに関連して,物理的な性質の充足度に比例して顧客の満足度が上がったり下がったりする特性を“一元的品質”と呼びます.また,充足度合に全く関係しない特性は“無関心品質”と表現します.
ここで注意すべき点がひとつあります.それは,時代によってどの特性が魅力的品質や当たり前品質となるのか,言い換えれば,お客様の心理的な満足度への影響度合いが変化するという点です.
病院でも,かつては「検査結果を紙で渡してもらえる」ことがありがたいサービスだったかもしれません.しかし,現在では患者ポータルやオンライン説明への期待が高まる場面もあります.また,感染対策への期待も時代や社会状況によって変化します.昨日の魅力的品質が,明日の当たり前品質になる,逆にこれまでは無関心だったことが急に魅力的な品質になることがあるのです.
各組織は,顧客にとって当たり前品質の特性を確実に満たしつつ,市場や地域で選ばれるために魅力的品質の側面を磨いていくことが求められます.
次回予告:次回は,企業側,組織側から品質を見る視点として,企画品質,設計品質,適合品質を取り上げます.