第10回 企画品質,設計品質,適合品質
前回の概要:前回は,当たり前品質と魅力的品質について説明しました.満たされて当然の品質と,満たすことで顧客満足を高める品質を区別して考えることが重要です.
ここからは企業側から見た品質の見方・捉え方になります.適合品質とは,その名前の通り,何らかの基準に適合しているかどうかを示しています.適合していなければ品質が悪い,適合していれば品質が良いということになります.
例えば,ボールペンの図面という基準に対して,実際に製造した現物のボールペンがどれだけ図面に合致しているかということを表します.別の言い方をすれば,製造品質とも言います.つまり,図面通りに製造できているかどうかが適合品質ということになります.
設計品質とは,その図面が当初の商品コンセプト通りになっているかどうかを指します.例えば,書き味の良いボールペンにするために,軸長や軸径を何mmにすればよいかを決めなければなりません.その決め方がまずいと,出来上がったボールペンが書き味の良いものになりません.これが設計品質の意味です.
さらに,企画品質というものもあります.これは,「書き味が良い」という商品コンセプトが本当に顧客が求めていることなのかどうかを示しています.顧客のニーズを捉え間違えると,その通りに設計,製造できたとしても,市場に出してもまったく売れないということが起こり得ます.
つまり,企画品質が高く,設計品質も良い,しかも適合品質が確保されて初めて,顧客にとってニーズを満たしてくれる満足度の高い製品・サービスが提供されることになります.逆に言えば,一般産業においては何らかの市場クレームや不具合が発生すると,その原因を企画起因,設計起因,製造起因に分類し対策を立てていくことが多いです.
この考えを病院に置き換えるためには,少し工夫が必要です.
企画品質は「そもそもその医療サービスが患者のニーズに合っているか」であり,設計品質とは「その患者のニーズに合った医療サービスの具体的内容,すなわち診断・治療計画を立案できているか」に当たります.医療においては個別患者に対する企画と設計を区別してもあまりメリットはないので,あえて区別せず,「企画・設計品質とは,対象となる患者のニーズに対して適切な診断・治療計画(看護計画,リハビリ計画,栄養管理計画なども含まれる)を立てられているか,である」とひとまとめで捉えるとよいでしょう.
一方で,もう少し視点を高くしてみると,病院がその医療圏や地域のニーズに合った医療サービスメニューを提供しているか(例えば,地域における救命救急,小児救急,周産期医療などの充実度,地域完結型医療の実現度合いなど)という視点も大事で,中長期的な病院経営の立場からは,この意味での企画品質を考えることは有意義だと思います.
また,最後の適合品質は,設計した診断・治療計画通りに日々の現場で実施できているか,となりますね.
これらの考え方は,実は医療分野またはQMS-H研究会の中で既に取り組んでいます.個別患者に対する企画・設計品質を担保するために,クリニカルパスが医療分野では導入が進んでおり,その発展形が現在,東京大学の水流先生が進められているPCAPS(患者状態適応型パス)ですね.また,適合品質とはその診断・治療計画をいかに確実にミスなく実施するかであり,これは手順書の整備,人材育成,そのための組織体制の整備などを含んだQMS(品質マネジメントシステム)活動に相当します.まさに,PCAPSとQMSの両輪で,品質を中核とした病院経営を実践することを狙っているのです.
次回予告:次回は,最終的なサービス品質を支える「業務の質」「仕事の質」と,内部顧客の考え方を取り上げます.