活動内容

各病院はQMSにおいて取り組みたい課題を重点課題として定め,改善に努めています.QMS-H研究会では,それらの課題について,病院,研究者,アドバイザーの3つの観点から,医療の質を保証するための議論を行っています.

活動内容-今までの成果

導入ステップ

  医療の質を保証するため,質マネジメントシステム(QMS)の導入が不可欠です.本研究会では,PFCを用いた標準化,文書管理手法,医療の安全教育方法,事故分析手法,対策立案手法などから成るQMSモデルを提案してきました.しかし,このモデルを組織に導入・推進するためには,戦略的に行っていく必要があります.すなわち,QMS導入の目標を明確にし,QMSの各要素をどのような順序で,どのような方法で,どれぐらいの期間で,どのような体制で取り入れていくのか,に関する綿密な計画が必要となります.本研究会では,QMSの導入・推進を実践するための11のステップを提案し,参加病院での導入・推進を行っています.

【関連文献】
[1] 金子雅明,塩飽哲生,棟近雅彦,水流聡子,飯塚悦功(2007):“A病院におけるQMS導入・推進の困難モデル”,品質,37, [4],72-87
[2] 金子雅明,塩飽哲生,棟近雅彦,水流聡子,飯塚悦功(2008):“病院へのQMS導入・推進における阻害要因克服方法の導出手順の提案”,品質,38,[3],65-86

PFC

  質の高い医療サービスの提供をできるかどうかは,診療業務プロセスの良し悪しにかかっています.これをより良いものにしていくためには,プロセスを可視化し,診療業務を構造化することが重要です.プロセスを可視化することは,作業内容を徹底するための伝達の手段にすることができ,新人に対する教育のためのテキストとしても有用です.さらに,複数名で検討し議論することも可能となり,手順の改善を促進する手段にもなります.
本研究会では,業務の流れを自由に表現できるプロセスフローチャート(PFC)を用いて,PFCを活用した可視化方法に関する研究を進めています.具体的には,診療業務を可視化するために必要な要素の標準化に関する研究や,看護業務の特性である業務の突発性や患者の多様性を考慮した可視化方法に関する研究などを行っています.そして,それらの研究を適用し,実際の病院における改善活動に貢献しています.

【関連文献】
[1] 小川大輔,遠藤充彦,棟近雅彦,金子雅明,飯塚悦功,水流聡子(2009):“医療の質マネジメントシステム構築における診療業務の可視化・標準化に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.124
[2] 松森清暢,高橋裕嗣,棟近雅彦,金子雅明,飯塚悦功,水流聡子,香西瑞穂,前田陽子,井上文江(2009):“標準化に向けた看護プロセスの可視化方法に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.124
[3] 香西瑞穂(2011):『QMS-H導入とPFCによる業務の可視化・標準化,質改善活動』,看護部通信Vol.9,No.3,P.1~6

事故分析

エラープルーフ化

  医療事故の防止策としては様々なものが考えられますが,作業方法に起因した場合,エラーが発生しにくい作業方法にすることが有効です.その実現方法として,エラープルーフ化がよく用いられています.エラープルーフ化とは,人間のエラーの発生率を下げるための作業方法に対する工夫であり,その原理として,排除,代替化,容易化,異常検出,影響緩和の5つに整理されています.エラープルーフ化の考え方を病院に容易に導入するため,医療事故から改善対象を容易に抽出するシートと,改善対象からエラープルーフ化の対策を容易に立案できるシートを提案し,病院に適用してきました.

事故分析手法

  患者に安全な医療を提供するために,様々な事故分析手法を取り入れ,事故の再発防止・未然防止に取り組んでいます.事故の分析は医療従事者自身によって現場で実施し,要因を解明することで今後の再発防止・未然防止に活かすことができます.そのために,事故分析手法は医療従事者にとって分析しやすい手法である必要があります.

  以下に,事故分析手法の中から「POAM」と「標準不遵守による事故の分析手法」について取り上げ,詳細を示します.

プロセス指向を実践するための事故分析手法「POAM」

  与薬業務は,注射薬や内服薬を患者に投与する業務であり,決まった手順に従って行なわれています.与薬事故を防ぐためには,仕事のやり方に着目して手順を改善すること(プロセス指向)が効果的です.
  そこで,医療従事者がプロセス指向を実践するための事故分析手法としてPOAM (Process Oriented Analysis Method for Medical Incidents)を開発しました. POAMは,事故状況を把握するために,与薬業務を「情報を受け取り,モノを取り,作業を行う」とした“与薬業務モデル”と,事故を誘発した要因を抽出する“観点リスト”を活用します.

図. 与薬業務モデル

  また実際に,提案したPOAMを医療従事者に適用してもらい,与薬事故件数を低減する効果が出ています.

【関連文献】
[1] 佐野雅隆,棟近雅彦,金子雅明(2009):“業務プロセスに着目した与薬事故分析手法の提案”,品質,39,[2],98-106

標準不遵守による事故の分析手法

  事故の中には,標準に対する知識・技能は十分であるにもかかわらず,決められた作業方法を遵守しないために発生するものがあります.従来,これらの事故は作業者の動機付けの問題と考えられてきました. しかし,作業者にとって標準が遵守しにくいという問題もあるため,作業者の動機付けだけでなく,遵守しやすい標準に改善する必要があります.
  そこで作業の不遵守が発生するメカニズムを明確にし,不遵守の分析方法を考えています.また,作業者の行動特性を捉えることで,遵守しやすい標準を設計しています.

【関連文献】
[1] 高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2008):“規則違反に起因する医療事故の分析手法に関する研究”,「日本品質管理学会第38回年次大会研究発表要旨集」,pp.77-80
[2] 中太彩子,高山陽平,棟近雅彦,金子雅明(2009):“標準作業方法の不遵守に起因する医療事故の対策立案方法に関する研究”,「医療の質・安全学会第4回学術集会抄録集」,pp.126

内部監査

  内部監査とは,組織の内部でお互いに業務内容をチェックし,普段業務を行っている人が気づきにくいような問題を是正することで,組織をより良い状態に近づける活動を指します.これは,病院だけでなく,どのような組織においても必要な活動であり,QMSの導入推進に欠かせない活動です.しかし,内部監査に関する具体的な方法論は確立されておらず,監査員が試行錯誤して行っているのが現状です.そのため,監査員によらず効果的に監査を行うために,方法論の確立を目指し,複数の病院と共同で研究を行っています.